お湯は熱く、浴室は静かで、いまだけは何もしなくていい。お風呂の夢は、人が語る夢の中でもいちばん穏やかなものの一つです。そして、ふとした拍子に奇妙な夢に変わります。お湯が冷たい、濁っている、扉が開いていて誰かに見られている。

夢の場面 古い書物の読み 出典
お風呂に入る 古いものが去り新しいものが来る、百事新たまる 『夢判斷』・『夢判斷實驗書』
温泉に入る 温泉の項目はなし なし
お湯が汚い 湯が鏡のように澄む夢は心正しく人に敬われる(逆の像) 『夢判斷』
お湯が冷たい 冷たく澄んだ湯はよい知らせと健康 ミラーの夢事典
人前でお風呂に入る 男女が裸で相見る夢は幸運がめぐる 『夢判斷』
お風呂が壊れる どの書物にも項目なし なし

夢占いの古典では、お風呂に入る夢はどう読まれてきたのか

日本の夢の書物は、入浴をほとんど「一新」として読んでいました。明治の夢判断書『夢判斷實驗書』(明治41年)は「○行水をつかふとみれば百事新たまり百病去るの兆」と書き、たらいで湯を浴びる夢を、あらゆることが新しくなり、多くの病が去るしるしとしました。

中国の『夢林玄解』を和訳した『夢判斷』(明治39年)は、同じ読みにその理由を添えています。『夢判斷』は行水を使う夢について「此は陳きを去つて新しきもの來る前兆」、古いものを捨てて新しいものが来る前触れと書きました。洗面鉢や湯だらいの夢も「穢きものを去つて新しきものと變へ」とされ、さらに奇妙な一項、「風呂に這入つて皮を傷つけ骨の露はるゝ夢」までもが、汚れたものが去り新しいものが至るしるしと読まれています。ただし例外もあり、同じ本は部屋の中で湯を浴びる夢を病にかかるしるしとしました。

中国の古典『周公解夢』も同じ方向です。身体の章の「沐浴遷官疾病除」は、湯浴みの夢を出世と病の快癒と読み、垢と入浴の章の「沐浴塵土疾病安」は、ほこりを洗い流す夢を病が落ち着くしるしとしました。警告は一つだけで、「男女沐浴上床凶」、男女が湯浴みをしてから床に入る夢は凶とされています。

西洋のミラーの夢事典(1901年、米国)は例外で、いちばん心配性の書物です。温かい湯は総じて悪いもので、冷たく澄んだ湯はうれしい知らせと長い健康の先ぶれだと書き、人と一緒に湯に入る夢には悪い仲間を避けよと添えました。東洋の書物が夢見る人を洗い清めたのに対し、ミラーは誰と入るかを気にかけたのです。

温泉、銭湯、湯殿といった言葉は、どの書物にも項目として出てきません。古い書物が黙っているところは、いちばん近い項目を借りて紹介し、そのうえで心理学の見方を添えます。

お湯はどうだったか

ここで紹介するのは古い夢の書物の読みで、歴史として伝えるものです。夢は未来を予言しません。

温泉に入る夢の意味は?

岩にかかる湯気、流れる湯の音、思わずもれる長いため息。温泉の項目は、このページで引くどの書物にもありません。いちばん近いのは明治の本の入浴の項で、湯浴みを一新と病の快癒として読んでいます。心理学では、温かいお湯は脅かすのではなく包み込む感情と読まれます。温泉の夢は、休息が足りていないとき、あるいはやっと休むことを自分に許したときに見やすいとされます。

お湯が汚い夢の意味は?

湯船に足を入れると、お湯が灰色に濁っている。ミラーの夢事典は、人と一緒に入る湯が濁っている夢を暗い兆しとし、敵が近くにいると読みました。逆の像を残しているのが『夢判斷』で、「湯が鏡の如く清く澄む夢」を、心が明らかで正しく、多くの人に敬われるしるしとしています。『夢判斷實驗書』にも「○面の垢を洗ひ去るとみれば禍を變じて福と爲すの兆」とあり、汚れを落とすことは災いを福に変えることでした。心理学では、濁ったお湯は中が見通せない感情を表し、きれいになりたいのに洗っても落ちない感覚を映すと読まれます。

お湯が冷たい夢の意味は?

温かいと思って入ったら、冷たさに息をのむ。この場面をよく読んでいるのはミラーの夢事典だけで、冷たく澄んだ湯はよい知らせと健康、氷水での入浴は楽しみにしていたことが思わぬ出来事で中断されるしるしとしました。心理学では、約束されていた安らぎが得られなかった失望、あるいは自分で選んだのではない、身の引き締まるような変化を映すと考えます。

誰がいて、何が起きたか

人前でお風呂に入る夢の意味は?

浴室の扉が開いている、湯船が通りの真ん中にある、知らない人が通り過ぎていく。ミラーの夢事典は、人と一緒に湯に入る夢を、悪い仲間を避けよという警告と読みました。『夢判斷』は反対に「男女とも裸體になつて相見る夢」を、幸運がめぐって一家が栄えるしるしとしています。心理学では、いつもの覆いなしに見られる「露出」の夢として読まれます。裸になる夢もあわせてどうぞ。

お風呂が壊れる夢の意味は?

蛇口が回らない、湯船にひびが入っている、入る前にお湯が抜けていく。この場面の項目は、このページで引くどの書物にもありません。心理学では、何度も邪魔される休息の夢と読まれます。回復の手段はあるのに、何かがそれを働かせない。ほんとうの休みがない週に見やすい夢です。

心理学では、お風呂の夢をどう読むのか

心理学では、まず水を感情として読みます。澄んでいるか、濁っているか、温かいか、冷たいか。水の状態は、いまの気持ちがどれだけ扱いやすいかを映します。お風呂は、選んで囲った水です。決まった量の感情を、閉じた部屋で、自分の意思で入っていく場所です。だからお風呂の夢は穏やかなことが多く、そうでないときにはそれだけ目につきます。

もう半分は「洗う」ことです。泳ぐことが感情への対処だとすれば、入浴は手放すことです。一日を下ろし、肌についたものを落とす。明治の本の「古いものが去り新しいものが来る」という読みは、心理学の見方と驚くほどよく重なります。後味の悪い出来事のあとや、新しい始まりの直前に見やすい夢です。水全体については水の夢もどうぞ。

心に留めておきたい問い

今週の終わりに、いちばん洗い流したいものは何でしょうか。


明治の夢判断書はお風呂を「百事新たまり百病去る」と読みました。けれど、あなたの夢のお風呂がいつも実家の浴室である理由や、仕事が重い週にだけお湯が冷たくなる理由は、古い書物には書かれていません。それが見えてくるのは、夢を書き留めて並べたときです。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。