背後の足音、鍵のかからない扉、もう逃げ場がないと気づく瞬間。殺される夢は、人が見る夢の中でもとりわけ恐ろしく、そして意外なほどよくある夢です。心臓が早鐘を打つまま目を覚まし、なぜ自分の心がこんな夢を見せたのかと考え込んでしまいます。

古い夢の書物は、夢を見た本人よりもずっと落ち着いてこの夢を扱いました。そして書物どうしで、読みがはっきり割れています。

夢の場面 古い書物の読み 出典
人に殺される 大いに吉 『周公解夢』
人に殺される 幸いのしるし。ただし逃げ隠れすれば「凶」 『夢判斷實驗書』
人に殺される 事が成らない 『夢判斷實驗書』(人物の項)
殺されそうになって逃げる 隠れれば「凶」 『周公解夢』『夢判斷實驗書』
家族に殺される 家族の項目はなし。家の者どうしの争いは一家離散 『周公解夢』
殺されて生き返る 殺されて死なない夢は、一度得たものを失う 『夢判斷實驗書』

夢占いの古典では、殺される夢はどう読まれてきたのか

いちばん意外な読みは中国から来ています。七字の句を並べた中国の古典『周公解夢』(1880年刊本)は、傷や争いを扱う章で「被人殺害者大吉」、人に殺される夢は大いに吉だと書きました。すぐ隣の「殺死他人大富貴」は、人を殺す夢を富と高い位のしるしとする句で、こちらは人を殺す夢のページで扱っています。同じ『周公解夢』の別の章には、恐ろしい夢を見た人にとっていちばん大事な条件を添えた「被殺害吉伏藏凶」という句もあります。殺されるのは吉、隠れるのは凶、という意味です。

この句は日本に渡りました。明治の夢判断書『夢判斷實驗書』(明治41年)は中国の句を数多く取り込んだ本で、「○人に殺さるゝとみれば幸あるの兆逃げ隱るゝときは凶」と、ほとんど訳すように書いています。ところが同じ本は、数十ページ前の人物の項で「○人に殺さるゝと見れば事ならず」とし、殺される夢を計画がうまくいかないしるしと読みました。さらに「○人に殺されて血を出だし叫ぶと見れば財產を失ふべし血を見ざれば名譽を失ふべし」とも書いています。血を流して叫べば財産を、血がなければ名誉を失う、という読みです。一冊の中で、読みが割れているのです。

中国の『夢林玄解』を和訳した『夢判斷』(明治39年)は、この食い違いを隠しません。殺す夢と殴る夢をまとめた項で、殺される夢について「吉凶の判斷一ならず」、吉か凶かは一つに決まらないと書き、「人に殺さるゝ夢は功名成らず」と続けます。別の項では「人に殺さるゝ夢は人の助けを得る兆なれど」と、反対の読みも残しています。

西洋の本は暗いほうへ読みました。ミラーの夢事典(1901年、米国)は、殺される夢を、敵がひそかに自分を倒そうと動いているしるしと読んでいます。中国最古の医書『黄帝内経』霊枢は、また別の説明をしています。「陰陽俱盛,則夢相殺」、体の陰と陽の気がともに盛んになりすぎると、殺し合う夢を見るというのです。夢を、外からのお告げではなく体の内側の乱れとして見る、古い一行です。

どの書物も、殺される夢を死の予告としては読んでいません。以下では、場面ごとに古い書物の読みを紹介し、そのうえで心理学の見方を添えます。

誰に殺されそうになったか

ここで紹介するのは古い夢の書物の読みで、歴史として伝えるものです。夢は未来を予言しません。

知らない人に殺される夢の意味は?

顔の見えない人影、コートの男、理由もなく自分を狙ってくる誰か。知らない相手に殺される夢の項目は、どの書物にもありません。いちばん近いのは、古い書物でおなじみの見知らぬ相手、盗賊です。『夢判斷實驗書』は、盗賊に追われる夢を「凶」、盗賊を追う夢を「大吉」と読み分けました。『周公解夢』は、相手が誰であっても、殺される夢そのものを吉と読んでいます。心理学では、ユングにならって、夢に出てくる見知らぬ人を、まだ自分のものと認めていない自分の一面として読むことがあります。自分を殺そうとする知らない人は、人生の何かを終わらせたがっている自分自身なのかもしれません。

家族に殺される夢の意味は?

親、配偶者、きょうだいが、ときには驚くほど落ち着いた様子で襲ってくる夢です。家族に殺される夢の項目は、このページで引くどの書物にもありません。いちばん近い『周公解夢』の句は「家中人鬥主分散」で、家の者どうしが争う夢を一家離散のしるしとしました。一方『夢判斷』は「兄弟同士が毆り合ふ夢は骨肉力を協せて一家榮える前兆」と、きょうだいが殴り合う夢をむしろ家族が力を合わせるしるしと読んでいます。心理学では、この夢を文字どおりには読みません。近しい関係が、自分にとって大切な何か、たとえば居場所や決める自由、家族には見えていない自分の姿を奪っているように感じられる時期に見やすい夢です。

夢はどう終わったか

殺されそうになる夢の意味は?

いちばん多いのは、殺される寸前で目が覚める夢です。振り上げられた刃物、首にかかった手、そして目覚め。殺されそうになる場面と、実際に殺される場面とを分けて読んだ書物はありません。『周公解夢』の句にしたがえば、大事なのは結末より、夢の中で自分がどう振る舞ったかです。殺されるのは吉、隠れるのは凶でした。心理学では、寸前で終わる夢に、まだ現実にはなっていないのに、すでに心を占めている脅威を読みます。締め切り、言い争い、まだ来ていない変化などです。

殺されそうになって逃げる夢の意味は?

廊下を走り、押し入れに隠れ、息を殺して相手が部屋を探し回るのを待つ。この場面だけは、中国と日本の書物の読みがそろっています。『夢判斷實驗書』は殺されそうになって逃げ隠れする夢を「凶」とし、その元になった『周公解夢』も隠れることを凶としました。ただし『周公解夢』は別の章で「身逃走得脫病去」、逃げおおせる夢を病が去るしるしとも書いていて、逃げ切ることまで悪く読んだわけではありません。心理学では、逃げること自体に意味を読みます。追いかけられる夢と同じく、昼間の自分が何かを避けている姿をなぞる夢で、その問題に向き合うと、追ってくる者は力を失うことが多いとされます。

殺されて生き返る夢の意味は?

撃たれ、刺され、突き落とされたのに、また立ち上がる。あるいは夢の中で目を覚まし、無傷の自分に気づく。いちばん近いのは『夢判斷實驗書』の「○殺されて死せずとみれば一旦得たるものを失ふの兆」で、殺されても死なない夢を、一度手にしたものを失うしるしと読みました。『夢判斷』には、人に肺肝を刺される夢を「死より生を得、禍變じて福となり」と読む項もあり、死から生への反転を、禍が福に変わる形として描いています。心理学では、生き返る夢に連続性を読みます。何かが終わり、それでも自分はその先へ進んでいる。夢の中の死を変容と読むユングの見方が、目に見える形をとった場面です。

心理学では、殺される夢をどう読むのか

心理学では、自分に向けられる暴力の夢を、狙われているという感覚の絵として読みます。撃たれる夢と同じく、殺される夢は、批判や頭越しの決定、個人的なものになってしまった対立など、何かが自分に向けられていると感じる時期に見やすいとされます。傷や死は、その感覚が体の形をとったものです。恐ろしい夢ですが、とてもよくある、ありふれた夢でもあります。誰に襲われたか、どこで起きたかのほうが、暴力そのものより多くを語ります。

深層心理学は、もう一つの読みを加えます。ユングの流れでは、夢の中で死ぬのは、役目を終えた役割や、これまでの自分であることが多いとされます。自分を形づくっていた仕事、終わった関係、引っ越す前の自分。殺される瞬間に、思っていたような恐怖がなく、むしろ何かが終わったという感覚が残ったと話す人も少なくありません。こうした夢がつらい朝を何度も連れてくるようなら、信頼できる人に話してみるのもひとつの方法です。自分が手を下す側の夢は人を殺す夢、銃の夢は撃たれる夢もどうぞ。

心に留めておきたい問い

いま、自分に迫ってきているように感じるものは何でしょうか。そこから逃げるのをやめたら、何が起きるでしょうか。


『周公解夢』は殺される夢を大いに吉と読み、明治の夢判断書は同じ一冊の中で吉とも凶とも読みました。古い書物の答えが割れる夢ほど、手がかりはあなたの夢そのものにあります。襲ってくる相手がいつも育った家に現れるのか、気の重い話し合いの前の週にだけ現れるのか。悪夢がよく続くなら、悪夢のガイドにその仕組みを書きました。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。