台所で、駅のホームで、昔住んでいた部屋の前で、どちらかが別れを切り出す。言葉は静かなのに、胸の中は静かではありません。目覚めると隣には同じ人がいて、あるいは誰もいなくて、夢の感触だけが一日じゅう残ります。別れる夢は、恋愛の夢のなかでもとくによく見られ、とくに誤解されやすい夢です。
| 夢の場面 | 古い書物の読み | 出典 |
|---|---|---|
| 彼氏と別れる | 夫婦が釵を争う夢は別れ。結った髪がひとりでにほどける夢は離別の憂い | 『夢判斷實驗書』 |
| 彼女と別れる | 花を折る夢は離別の悲しみ | 『夢判斷實驗書』 |
| 振られる | 振られる夢の項目はなし。捨てられる夢は計画が立てにくい | ミラーの夢事典 |
| 別れを告げる | 鏡が割れる夢は離別。友と別れる夢は小さな苛立ち | 『夢判斷實驗書』、ミラーの夢事典 |
| 別れて泣く | 兄弟や師、友と泣く夢は別離 | 『夢判斷實驗書』 |
| 復縁する | 割れた鏡に人が映る夢は、一度離縁してまた縁を結ぶ | 『夢判斷』 |
夢占いの古典では、別れる夢はどう読まれてきたのか
まず知っておきたいのは、古い夢の書物には「恋人と別れる夢」という項目がないことです。結婚を前提としない恋愛を自分の意思で終わらせる、という考え方そのものが、比較的新しいものだからです。そのかわり、古い書物は「離別」を数多く取り上げ、それを身のまわりの物で読みました。
いちばん多くを残しているのは、柄澤照覺の『夢判斷實驗書』(明治41年)です。この本は器物の章で「○鏡破るゝとみれば離別の兆」と書き、すぐ隣に「○鏡に他人を映するとみれば夫婦離別の兆」と並べました。車の章には「○車の輪離るゝとみれば夫婦離別の兆」とあります。この車輪の行は、中国の古典『周公解夢』の「車輪破夫妻相別」、車輪が壊れる夢は夫婦が別れる、という七字句とよく似ていて、明治の夢判断が中国の夢書を受け継いでいたことがわかります。『周公解夢』には「夫妻分釵主離別」、夫婦が釵(かんざし)を分ける夢は離別、という句もあります。
『夢判斷實驗書』には、もうひとつ興味深い記述があります。夢を見た日の干支で吉凶を読む一覧のなかに、「みづのとゐの日の夢は口舌あり人に別るゝことあり」とあるのです。別れは、夢の中身ではなく、夢を見た日付から読まれることもあったわけです。
中国の『夢林玄解』を和訳した『夢判斷』(明治39年)は、少し違う角度から別れを読みました。夫婦が喜び笑う夢は、夫婦の間に悲しみがあり「泣いて別れる事あるべし」と書き、続けて、この種の夢は反対の前兆で「謂はゞ逆夢なり」と添えています。同じ本は、長く離れて暮らす人について、もっと穏やかな一節も残しました。「遠く別れて久しく思ふ人は其人夢に現はれ」、つまり、離れて久しく思い続けている人は夢に現れる、というのです。そして、その夢の吉凶は「凡て自分の心に向ふて判斷すべし」、すべて自分の心に問うて判断せよ、と結んでいます。
西洋では、ミラーの夢事典(1901年、米国)に別れの項目はありませんが、「別れ(Parting)」の項で、友や仲間と別れる夢を、日々の小さな苛立ちが増えるしるしと読みました。また「捨てる(Abandon)」の項には、捨てる夢も捨てられる夢も、昼間に心に強く刻まれていれば文字どおりに実現することがある、という注があります。昼間に別れを考えていれば、夜にも別れの夢を見る、という、いまの感覚にも近い一文です。
どちらが別れを切り出したか
ここで紹介するのは古い夢の書物の読みで、歴史として伝えるものです。夢は未来を予言しません。
彼氏と別れる夢の意味は?
彼が先に言うのか、自分が言うのか。夢は、彼の上着や部屋の明かり、言葉の一つひとつまで細かく覚えています。『夢判斷實驗書』には、この場面に近い行が二つあります。「○夫婦釵を爭ふとみれば別れを主どる」と、髪の章の「○結びたる髪の自ら解け亂るゝと見れば離別の患ひあり」です。どちらも、結ばれていたものがほどける像です。心理学では、彼氏と別れる夢は、彼への評価というより、安心感のものさしとして読まれます。関係のどこかがゆるんだと感じるとき、あるいは仕事や家族など別の場所で何かがゆらいでいるときに見やすい夢です。
彼女と別れる夢の意味は?
彼女が荷物をまとめている。ベッドの端で、じっと座っている。『夢判斷實驗書』は、鏡や車輪より柔らかな像を残しています。植物の章に「○花を折るとみれば離別の悲みあるの兆」とあり、すぐあとに「○花を採るとみれば喜びごとあるの兆」と続きます。同じ花でも、折るか摘むかで読みが分かれるのです。心理学では、彼女に去られる夢から目覚めた人が、自分の中の思いがけない優しさに驚くことがよくあると指摘されます。この夢が語るのは、関係の行方より、その関係がどれほど大切かということです。
振られる夢の意味は?
予想もしていなかったのに、突然告げられる。理由は夢の中でも説明されません。振られる夢そのものの項目は、このページで引くどの書物にもありません。いちばん近いのはミラーの夢事典の「捨てる」の項で、捨てられる夢を、将来の計画を立てにくくなるしるしと読みました。心理学の読みは、もっと身近で役に立ちます。振られる夢は、自分は十分ではないのではという不安を先回りして味わう夢と考えられています。その不安は、恋愛とは関係のない場所、たとえば職場での評価から来ていることも少なくありません。
別れを告げる夢の意味は?
今度は自分が告げる側です。相手はいまの恋人のこともあれば、付き合ったこともない人のこともあります。『夢判斷實驗書』の「○鏡破るゝとみれば離別の兆」は、この場面にもよく重なります。自分を映してきたものを、自分の手で終わらせる像です。ミラーの夢事典は、仲間と別れる夢を小さな苛立ちのしるしとする一方、敵と別れる夢は恋にも商売にもよいと読みました。心理学では、変化を望む気持ちの表れとして読まれます。ただし、終わらせたいのは恋愛とは限りません。仕事や習慣、もう窮屈になった役割であることも多いのです。
別れのあとで
別れて泣く夢の意味は?
目覚めたとき、頬が本当に濡れている。いちばん記憶に残るのは涙です。『夢判斷實驗書』は「人と泣き悲むとみれば喜びごとあるの兆但兄弟師友と泣き悲むとみれば別離の兆」と書き、誰かと泣く夢を喜びのしるしとしながら、兄弟や師、友と泣く夢だけは別れのしるしとしました。『夢判斷』(明治39年)はもっと厳しく、夫婦が泣き悲しむ夢を、どちらかが亡くなるか別れるしるしと読みましたが、若い新婚の夫婦なら互いに喜び楽しむことがある、とすぐに和らげています。百年以上前の本の読みで、夢が誰かの死を告げることはありません。心理学では、夢の中の涙は、昼間には許されなかった感情の表れと読まれ、泣いたあと妙に心が軽くなって目覚める人も多いのです。
復縁する夢の意味は?
別れたはずなのに、気がつくと二人で同じソファに座っている。『夢判斷』(明治39年)には、このページでいちばん希望のある一節があります。割れた鏡に人が映る夢について「我鏡破れて人を照す夢は一度妻と離緣して後再び緣を結ぶ兆」と書き、結婚相手を求める人には縁が近いしるしとしました。割れても、まだ映すことができる鏡です。心理学はもう少し慎重で、復縁する夢は、その人自身より、関係が抱えていたもの、つまりあの頃の気持ちや自分の姿に戻っていく夢と読みます。別れた相手の夢については元彼の夢もどうぞ。
心理学では、別れる夢をどう読むのか
心理学の出発点は、ひとつの観察です。捨てられる夢や去る夢は、相手についての確信より、自分の価値や安心感についての感覚を多く映しています。関係の中で何かが動き始めたと感じるとき、あるいは生活の別の部分が手からこぼれていくように感じるときに、こうした夢は増えます。夢が繰り返し味わっているのは、事実ではなく恐れのほうなのです。
あらゆる種類の終わりが、別れる夢の材料になります。引っ越し、転職、友人の転居、節目の誕生日。心は自分の知るいちばん感情のこもった終わり、多くの場合は恋愛の終わりを借りて、それを夢の中で再生します。付き合い始めて幸せな時期や記念日の前後に別れる夢が多いのは、そのためです。失うものがある、それだけで十分なのです。
手がかりになるのは、目覚めたときの気持ちです。ほっとしたなら、相手から離れたいのではなく、もう少し自分の場所がほしいのかもしれません。悲しかったなら、それだけ強い愛着と、それを失う怖さがあります。浮気の不安については恋人が浮気する夢、涙そのものについては泣く夢もどうぞ。
心に留めておきたい問い
夢が何かを失う練習をしていたのだとしたら、いちばん失いたくないのは、その人自身でしょうか、それともその人が表している何かでしょうか。
明治の夢判断書は、割れた鏡を離別と読みました。けれど、なぜあなたの別れる夢が実家に帰る前の週にだけ現れるのか、恋人が出張している夜にばかり訪れるのかは、古い書物には書かれていません。手がかりは、夢を書き留めて並べたときに見えてきます。同じ別れを何度も見るなら、繰り返し見る夢の解説も参考になります。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。