陣痛も病院もなく、気づけば生まれたばかりの子の重みが腕の中にある。そんな、物語の途中から始まる出産の夢があります。反対に、長い長いお産だけが続き、子どもの顔を見る前に目が覚める夢もあります。出産の夢は、妊娠中の人にも、出産の経験がない人にも、男性にも訪れ、安堵や不安、驚きや疲れといった強い感情を朝まで残していきます。

古い夢の書物も、このテーマを丁寧に扱っていました。西洋でも日本でも、出産は細かく読み分けられた数少ない夢のひとつです。誰が産んだのか、男の子か女の子か、いちどに二人生まれたのか。

夢の場面 古い書物の読み 出典
自分が出産する 幸運な成り行きと安産 ミラーの夢事典
新しく子が生まれる 大吉 『周公解夢』
男の子を出産する 病気にかかる 『夢判斷實驗書』
女の子を出産する 財産を失う 『夢判斷實驗書』
生まれた子を抱く 立身出世 『夢判斷實驗書』
双子・三つ子を出産する 口論が絶えない。官職にある人は位が上がる 『夢判斷』
他人が男の子を出産する 自分に子ができる 『夢判斷實驗書』
難産 どの書物にも項目なし なし

夢占いの古典では、出産する夢はどう読まれてきたのか

日本の夢占い(夢判断)の古典として、このサイトが引く明治の二冊は、どちらも出産に項目を割いています。柄澤照覺の『夢判斷實驗書』(明治41年)は、人事類の「出產」の見出しのもとに、男の子、女の子、双子、他人の出産、妻の出産、そして自分が赤子として生まれ直す夢まで、一行ずつ読みを並べました(国立国会図書館デジタルコレクション、コマ51、74ページ)。中国の『夢林玄解』を和訳した『夢判斷』(明治39年)も、288ページで同じ読みの多くを繰り返し、独自の条件を書き添えています。

中国の古典『周公解夢』は、このテーマをわずか七文字にまとめました。「新生男女主大吉」、男の子でも女の子でも、新しく子が生まれる夢は大吉だというのです。西洋のミラーの夢事典(1901年、米国)も、出産する夢を幸運な成り行きと元気な子の安産と読みました。ただしミラーは、同じ夢を未婚の女性には不名誉のしるしとしており、この読み分けには、本が書かれた時代の価値観がそのまま出ています。

おもしろいのは、書物どうしの読みが食い違うところです。『周公解夢』やミラーが出産そのものに幸運を見たのに対し、明治の『夢判斷實驗書』は、生まれる瞬間よりもそのあと、生まれた子を腕に抱く場面に幸運を置き、出産の瞬間そのものはむしろ警戒して読みました。以下では、場面ごとに古い書物の読みを紹介し、そのうえで心理学の見方を添えます。

誰が産んだか

ここで紹介するのは古い夢の書物の読みで、歴史として伝えるものです。夢は未来を予言しません。

自分が出産する夢の意味は?

陣痛、いきみ、そして胸の上に置かれる赤ちゃん。多くの人が見るのは、この形の出産の夢です。『夢判斷實驗書』は、生まれる瞬間よりも、その次の場面をいちばんよく読みました。「○生れたる子を抱くとみれば立身出世の兆」、生まれた子を抱く夢を、世に出て身を立てるしるしとしたのです。同じ本は、自分が赤子のようになって人の腹から生まれ出る夢を、人望を得るしるしと読んでいます。ミラーの夢事典も、出産する夢を幸運な成り行きと読みました。心理学では、長く抱えてきたものがついに世に出た、完成と解放の夢と考えられます。

他人が出産する夢の意味は?

姉妹のお産、友人の腕の中の赤ちゃん、知らない人の分娩室。『夢判斷實驗書』は、他人が男の子を産む夢を「我れ子を得るの兆」、自分に子ができるしるしと読み、他人が女の子を産む夢を財産を得るしるし、妻が子を産む夢を子孫繁昌のしるしとしました。『夢判斷』も同じ三つの読みを載せたうえで、父や母が子を産む夢だけは家業が衰えるしるしと、逆向きに読んでいます。心理学では、他人の出産は、身近な人の変化を外から見ている夢と読まれます。その人の新しい始まりが、自分にとって何を意味するのかを問う夢です。

どんな子が、どう生まれたか

男の子を出産する夢の意味は?

ここでの『夢判斷實驗書』の読みは率直です。「○男子生るとみれば疾に罹るの兆」、男の子が生まれる夢を、病気にかかるしるしとしました。『夢判斷』も、子を産み育てる夢の項で同じ読みを載せています。一方、『周公解夢』は男の子も女の子も区別せず、新しく生まれる子の夢を大吉としました。心理学では、子どもの性別を古い書物ほど文字どおりには読みません。夢の中の男の子は、その人が息子や男らしさに結びつけているものを映すことが多く、意味は人によって違います。

女の子を出産する夢の意味は?

男の子と同じ一行の後半で、『夢判斷實驗書』は女の子が生まれる夢を財産を失うしるしと読み、『夢判斷』もこれに従いました。どちらの本も理由は書いていません。すぐ次の行では、他人が女の子を産む夢を財産を得るしるしとしているので、自分の出産と他人の出産を、鏡に映したように反対に読んでいたことがわかります。心理学では、娘という存在がその人にとって何を意味するか、やさしさ、つながり、若い頃の自分などから読み始めます。

双子を出産する夢の意味は?

産声がひとつではなく、ふたつ。『夢判斷實驗書』は「○二た子又は三つ子を生むとみれば口舌の兆」と書き、双子や三つ子を産む夢を口論やもめごとのしるしとしました。いちどに何人もの子が来ることを、いくつもの声がぶつかり合うことに重ねたのかもしれません。『夢判斷』もふつうの人にはこの読みを当てましたが、官職にある人がこの夢を見れば、位が大いに上がるとしています。ミラーの夢事典は反対に、双子を見る夢を仕事の安定と家庭の満ち足りた暮らしと読みました。心理学では、ふたつの計画が同時に動き出している、あるいはひとつの変化に二つの面がある、という感覚を映すと考えられます。

難産の夢の意味は?

いつまでも終わらないお産、途中で止まってしまう分娩、何かがおかしいという恐れ。難産の夢の項目は、このページで引くどの書物にもありません。心理学の読みははっきりしていて、夢の中の苦しいお産は、進行中の難しい移行を映すことが多いとされます。生まれる準備はできているのに、思っていた以上に力が要る。変化の始まりではなく、いちばん苦しい最後の一区間で見やすい夢です。

心理学では、出産する夢をどう読むのか

心理学では、出産の夢は「温めてきたものの到来」として読まれます。妊娠の夢が、まだ形になりきらない可能性を映すとすれば、出産の夢は、それがもう内側にとどまっていられなくなった瞬間を映します。見せられるところまで仕上がった仕事、口に出さなければならない決断、すでにここにいる新しい自分。性別や年齢に関係なく見られ、転職、引っ越し、長い仕事の終わりといった始まりの時期に集まりやすい夢です。

お産の様子は、生まれた子と同じくらい大切です。軽いお産と穏やかな赤ちゃんは、準備の整った変化に寄り添い、長く怖いお産は、無理に押し進めている変化に寄り添うことが多いのです。生まれた子はその後、赤ちゃんの夢として、見失う、忘れる、守るといった形でまた現れることがあります。それはたいてい、新しく小さなものへの責任の重さを映していて、本当に何かに失敗しているわけではありません。

妊娠中の人にとって、出産の夢はもっともよく見る夢のひとつで、たいていは予言ではなく予行演習です。夢がつらい気持ちを何度も残していくようなら、信頼できる人に話してみるのもひとつの方法です。

心に留めておきたい問い

長いあいだ抱えてきて、いま、あるいはもうすぐ、世に出ようとしているものは何でしょうか。


ミラーは出産の夢に幸運を見て、明治の夢判断書は男の子の誕生を病のしるしと読みました。けれど、出産の夢がいつも締め切りの前の週に来る理由や、夢の中の子がいつも自分の子ではない理由は、古い書物には書かれていません。手がかりは、記録して並べた自分の夢の中にあります。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を絵にし、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。