先に答えます。夢占いをやめる必要はありません。ただ、未来の予言として読むのはやめたほうがよい、というのが正直な答えです。夢辞典は、昔の人が夜の夢をどう考えたかの記録であって、あなたの来週を告げるものではありません。調べると落ち着く、おもしろいと感じるなら、続けてかまいません。調べたあとのほうが夢そのものより不安になるなら、それが辞典を閉じる合図です。
この問いを検索する人の多くは、つらい経験をしています。歯が抜ける夢を見て意味を調べたら、出典も時代も書かれていないサイトに「身内に不幸がある」と言い切られていた。夢よりも、その一文のほうが長く心に残ってしまった。そうした経験は真剣に受け止める価値がありますし、なぜそうなるのかにも、はっきりした理由があります。
なぜ「夢占いはやめたほうがいい」と言われるのか
いちばん多い理由は、結果が怖かったからです。ネットの夢占いの多くは、古い書物の前兆を、どの本の言葉かを示さないまま「〇〇の暗示」と言い切りの形で載せています。もとは百年以上前の、ある文化のひとつの読みだったものが、今朝の自分への宣告のように届いてしまうのです。
もうひとつ、日本には、夢の読み方そのものが結果を左右するという古い考え方がありました。民俗学者の柳田國男は『昔話と文学』(1938年)で、「夢は合せがら」ということわざを紹介しています。悪い夢でも上手に解き合わせればよい結果を導き、よい夢でも悪く合わせれば災いを招く、という考え方です。柳田は、悪い夢を言葉でよい方へ取りなす「夢ちがへ」や、「夢は逆夢」という慰めの言葉、悪い夢を見たら「獏食へ」と唱える習わしも書き留めました。折口信夫は『古代研究』(1929年)で、悪い夢を載せて流し去るための船の絵が、のちに正月の宝船の絵になったと述べています。
こうした習わしがあったということは、昔の人もまた、夢の読みに振り回される不安を抱えていたということです。「やめたほうがいい」という声は、その不安の現代版だといえます。
夢辞典は、本当は何なのか
どの夢辞典にも先祖がいます。2世紀のギリシャでアルテミドロスが夢を集め、イスラームのタビールの伝統は夢解釈を学問として築き、1901年の米国ではミラーが夢事典をまとめ、明治の日本では『夢判斷實驗書』(明治41年)のような夢判断書が、ひとつのイメージに短い吉凶をつけて並べました。いま読めば、これらは文化の歴史です。人々が何を恐れ、何を願い、何について言い争ってきたかが、シンボルひとつずつに書き留められています。
柳田國男は、英国の学者に頼まれて日本の夢判断の本を集めたところ、そのほとんどが中国の夢占いの本の翻訳だったことに驚いた、とも書いています。このサイトが引く明治の『夢判斷』(明治39年)も、中国の『夢林玄解』を和訳したものです。夢の読みは、国から国へ、時代から時代へと受け渡されてきたものなのです。
そして、書物どうしの読みはしょっちゅう食い違います。『夢判斷實驗書』は蛇の夢に良縁を読みましたが、中国の古典『周公解夢』は黒い蛇に口論を読みました。恋人の浮気を夢に見ることを、ミラーの夢事典は幸せな結婚のしるしと読み、『夢判斷實驗書』は妻がほかの男に嫁ぐ夢に家業の衰えを読んでいます。夢の読みが予言なら、どちらかは外れていなければなりません。歴史として読むなら、この食い違いこそがいちばんおもしろいところです。くわしくは夢占いの歴史にまとめました。
夢占いが当たったように感じるのはなぜか
夢は、すでに抱えている材料でできています。気になっている人、心配ごと、片づいていない用事。夢とその後の出来事が重なるのは、たいてい、どちらも同じ状況から生まれているからです。しかも記憶は、当たった一つを残し、外れた何千もの夢を忘れます。くわしくは正夢・予知夢は本当にある?に書きましたが、答えは「夢は未来を予言しない」です。
柳田國男も同じことに気づいていました。夢判断が当たったものだけが珍しい話として伝えられ、その何十倍、何百倍もの夢は、あやふやなまま人を迷わせていた、と書いています。そして、昔の夢解きは、解釈としての値打ちよりも、かつての日本人がどんな夢を見ていたかを知る史料として役に立つのだ、と述べました。夢解きを信じるという意味ではない、とわざわざ断ってもいます。
夢占いをやめたほうがいいのは、どんなとき?
正直な目安をいくつか挙げます。
- 毎朝、すべての夢を調べ、調べるまで落ち着かない。
- 読みのせいで決めごとが変わる。 夢の意味を理由に、旅行や連絡、人に会うことを避けている。
- よい読みが出るまで検索を続ける。 あるいは、悪い読みが頭から離れず、調べ続けてしまう。
- 夢よりも、読みのほうが怖い。
どれに当てはまっても、あなたに何か問題があるわけではありません。辞典が、もともとできない仕事をさせられはじめている、というだけです。夢そのものがつらい朝を何度も連れてくるようなら、信頼できる人に話してみるのもひとつの方法です。悪夢のガイドには、楽になるための方法をまとめています。
夢の意味を上手に読むには?
夢占いを楽しんでいるなら、よい読み方があります。
- 辞典より先に、自分の夢から始める。 目が覚めたらすぐ、どう感じたかも含めて書き留めます。気持ちは、いちばん確かな手がかりです。
- いまの暮らしで、同じ気持ちになる場面を探す。 追いかけられる夢は、何かを避けている週に、歯が抜ける夢は、人にどう見られるかが気になる週に見やすいものです。
- 古い書物の読みは最後に、出典つきで読む。 ひとつの読みを、ある文化のひとつの推測として受け取ります。伝統どうしが食い違うところは、あなたについてより、その文化について多くを語っています。
- 繰り返す夢に気づく。 何度も戻ってくる夢は、片づいていない何かと結びついていることが多いものです。繰り返し見る夢に、その糸のたどり方を書きました。
こう読めば、夢の意味は判決ではなくなり、もともといちばん得意だったもの、自分との対話のきっかけに戻ります。
結局、夢占いはやめるべき?
予言として扱うのは、やめましょう。歴史として、そして自分をふり返るきっかけとしてなら、続けてかまいません。役に立つ問いは「これから何が起こるか」ではなく、「いま何が心にあるか」で、その答えを出せるのは、書き留めて読み返したあなた自身の夢だけです。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。