火事の夢は、煙のにおいや熱まで感じたような気がして、飛び起きることの多い夢です。ところが明治の『夢判斷實驗書』では、火事は災難どころか、財や開運のしるしとして読まれています。
| 夢の場面 | 古い書物の読み | 出典 |
|---|---|---|
| 家が火事になる | 家から火事を出せば財産が増える | 『夢判斷實驗書』 |
| 職場が火事になる | 店が燃えるのを見ていれば商売が大いに繁盛する | ミラーの夢事典 |
| 大火事 | 大きな成功とよい変化(ただし命が失われなければ) | ミラーの夢事典、アルテミドロス |
| 火事の煙 | 疑いや恐れ、口論 | ミラーの夢事典、『黄金の輪』 |
| 火を消す | 隣家の火事を消せば威望を失う | 『夢判斷實驗書』 |
| やけどをする | 火で身を焼けば家を富ます | 『夢判斷實驗書』 |
| 火をつける | 思いがけない楽しいこと | ミラーの夢事典 |
| 松明を持つ | 火を持って道を行けば開運 | 『夢判斷實驗書』 |
夢占いの古典では、火事の夢はどう読まれてきたのか
このページでは、日本の夢占い(夢判断)の古典として、柄澤照覺の『夢判斷實驗書』(明治41年)を中心に引きます。『夢判斷實驗書』の「火災」の項は、「○」で始まる短い一行を並べたもので、その基調ははっきりしています。「物の焼くるとみれば吉」、つまり物が焼ける夢は吉、とまず書き、木から炎が噴き出す夢は大吉としました。
おもしろいのは、火を「失うもの」ではなく「増えるもの」として扱っている点です。『夢判斷實驗書』は、自分の家から火を出す夢にも、火で自分の身を焼く夢にも、財が増え家が富むしるしを読みました。この項でただひとつ悪く読まれているのが、隣家の火事を消し止める夢です。火が福だとすれば、それを消すのは福を手放すことになる、という筋の通し方です。
大火事や煙、職場の火事など、明治の本に項目のない場面については、西洋の古い夢の本を手がかりにします。ミラーの夢事典(1901年、米国)も火の夢の多くを吉と読みましたが、煙の夢には明るい読みを一つも残していません。
どこが燃えていたか
ここで紹介するのは、古い夢の書物に残る読みを、歴史の記録として伝えるものです。夢が未来を予言することはありません。
家が火事になる夢の意味は?

見慣れた自分の家が炎に包まれる夢は、火事の夢のなかでもいちばん多く語られる場面です。明治の夢判断書『夢判斷實驗書』(明治41年)は「家内より火事を出すとみれば財産を殖すの兆」と書き、家の中から火事を出す夢を、財産が増えるしるしと読みました。同じ『夢判斷實驗書』は、隣の家の火事が燃え移ってくる夢も吉とし、燃え移らなければ得るものはない、と書いています。怖い場面ほど福に結びつけるのが、この本の火の読み方です。心理学では、家は自分自身や家族の象徴とされ、家が燃える夢は、暮らしの土台が大きく揺らいでいる感覚と重ねて読まれます。
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職場が火事になる夢の意味は?
会社や店が燃えている夢は、目覚めてから仕事に行くのが少し気まずくなるような夢です。明治の二冊には職場の火事の項目がなく、取り上げているのは西洋の本です。ミラーの夢事典(1901年、米国)は、商売をする人が自分の店が燃えるのを見ている夢を、商売が大いに繁盛するしるしと読みました。ただしミラーは、火事のあとの焼け跡を見る夢には不運と落胆を読み、そこから思いがけない幸運で立ち直る、と書き添えています。心理学では、職場の火事は、仕事への不満や燃え尽きそうな疲れが形をとったものとして読まれることがあります。
山火事の夢の意味は?
山や森が一面に燃え、赤い空の下で煙が広がっていく夢です。『夢判斷實驗書』にも、ここで引く西洋の本にも、山火事の項目はありません。心理学から見ると、山火事は自分ひとりの手には負えない大きな出来事の象徴です。周りの状況が勝手に広がっていき、止めようがないと感じているときに見やすい夢と考えられます。燃えたあとの山にはまた緑が戻る、という再生の連想で読む人もいます。
火の大きさと煙
大火事の夢の意味は?
街ごと呑み込むような大火事は、夢の中でも圧倒的な光景です。明治の二冊には火の大きさの項目がなく、ミラーの夢事典(1901年、米国)は、大火事を見る夢を船乗りには安全で実りある航海、商売をする人には限りない成功と読みました。さらにミラーは別の項で、命が失われなければ大火事はよい変化のしるしだ、と条件をつけています。一方、古代ギリシャのアルテミドロスは空に見える火について、小さく澄んだ火と、はかり知れないほど大きな火とを分け、大きな火には敵の襲来や飢饉を読みました。同じ大きな火でも、読みは正反対です。
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ぼやの夢の意味は?
小さな火がくすぶり、すぐに消し止められた、あるいは気づいたら消えていた、という夢です。『夢判斷實驗書』にも西洋の本にも、ぼやだけの項目は見当たりません。心理学では、小さな火は大ごとになる前の小さなもめごとや、見過ごしている小さな不満を映すと読まれます。ぼやで済んだことにほっとしたのか、まだ火種が残っていそうで落ち着かなかったのか、目覚めたときの気持ちが手がかりになります。
火事の煙の夢の意味は?
炎よりも煙ばかりが目に入り、息苦しさで目が覚める夢です。明治の二冊には煙の項目がなく、ミラーの夢事典(1901年、米国)は、煙の夢を疑いや恐れに惑わされるしるしとし、煙に巻かれる夢は、危険な人物にお世辞で食い物にされていることだと読みました。米国の夢占い本『黄金の輪』(1862年)は、煙の立ちこめた部屋にいる夢に激しい言い争いを読み、恋人たちが煙の夢を見れば、次に会ったときに煙の奥の火、つまり怒りか情欲に行き当たる、と書いています。心理学でも、煙は先の見えない状態や、はっきりしない不安の象徴とされます。
火事のなかで自分がしたこと
火を消す夢の意味は?

バケツの水をかけ、必死に火を消そうとする夢です。明治の夢判断書『夢判斷實驗書』(明治41年)は「隣家の火災を救ふとみれば威望を失ふの兆」と書き、隣の家の火事を消し止める夢を、人望や威光を失うしるしと読みました。火事の夢をほとんど吉と読むこの本のなかで、火を消す夢だけがはっきり逆向きの読みです。善いことをしたはずの夢に損を読むのは、火そのものを福と見ているからでしょう。心理学では、火を消す夢は、燃え広がりそうな感情や問題を何とか抑えようとしている状態として読まれます。
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やけどをする夢の意味は?
火に触れて熱さを感じる夢は、痛みの記憶が妙に生々しく残ります。『夢判斷實驗書』(明治41年)は「火にて身を焚くとみれば家を富ますの兆」と書き、火で自分の身を焼く夢を、家を富ませるしるしと読みました。この一行は火事の項ではなく体の項にあり、全身に毛が生える夢や、肌にうろこが出る夢と並んでいます。体に起きる奇妙な変化を福と結びつける読みのひとつです。心理学では、やけどの夢は、誰かの言葉や出来事に「痛い目にあった」という感覚や、深入りしすぎたことへの後悔と重ねて読まれます。
遠くの火事を見る夢の意味は?
遠くの空が赤く染まり、どこかで何かが燃えているのを、ただ眺めている夢です。明治の夢判断書にも西洋の本にも、遠くから火事を見る場面の項目はありません。心理学では、この夢は、自分に直接は関わらないけれど気にかかっている出来事や、少し距離を置いて見守っている誰かの問題と結びつけて読まれます。怖かったのか、どこか他人事だったのか、あるいは目を離せなかったのか。そのときの感じ方が、自分と出来事との距離を映しています。
火をつける夢の意味は?
マッチを擦る、火を起こす。自分の手で火をつける夢です。明治の二冊にはこの場面がなく、ミラーの夢事典(1901年、米国)は、火を起こす夢を、思いがけない楽しいできごとや遠くの友人を訪ねることのしるしと読みました。火の夢の項のなかでも、条件のつかない明るい読みのひとつです。心理学では、火をつける夢は、何かを始めたい気持ちや、自分から状況を動かしたいという意志の表れと読まれます。一方で、放火のように火を放つ夢なら、抑えている怒りのはけ口を探しているとも読めます。
火そのものの夢
松明を持つ夢の意味は?
暗い道を、松明の火を掲げて歩いていく夢です。明治の夢判断書『夢判斷實驗書』(明治41年)は「火を持ちて途を行くとみれば開運の兆」と書き、火を持って道を行く夢を運が開けるしるしと読みました。同じ本は、火を持って家の中に入る夢にも、よいことがあり何ごとも運が向くと書いています。火を手にして歩く人を、道を照らし福を運び込む人として見ていたようです。心理学から見ると、松明は、先の見えない状況でも自分の進む道を照らそうとする意志の象徴です。
空の火の夢の意味は?

夜空に炎が走る、空そのものが燃えているように見える、という夢です。『夢判斷實驗書』には、空に火が見える場面の項目はありません。心理学では、空の火は、自分の力の及ばない大きな変化や、世の中の不穏な空気への感受性と結びつけて読まれることがあります。美しいと感じたのか恐ろしいと感じたのかで、読み方は大きく変わります。
心理学では、火事の夢をどう読むのか
心理学では、火はまず感情の強さの象徴として読まれます。怒り、情熱、嫉妬、焦り。胸の内で燃えているものが、夢では文字どおりの炎になって現れるという考え方です。フロイトが分析した患者ドーラの夢も、家が火事になる場面から始まっていました。フロイトはそこに、抑えた欲望と、そこから身を守ろうとする気持ちとのせめぎ合いを読み取りました。
ユングは火を、変容の象徴として重く見ました。火は物を焼き尽くしますが、同時に鉄を鍛え、食べ物を変え、暗がりを照らします。燃えてしまった後に何が残るのかを問う夢として、火事の夢を読むこともできます。
だから、火事の夢では細部が手がかりになります。何が燃えていたのか、自分は逃げたのか消したのか、見ていただけなのか。『夢判斷實驗書』が、火を出す夢と火を消す夢とで読みを逆にしたように、自分と火との関わり方で意味が変わると考える点では、古い書物と心理学は意外に近いところにいます。
心に留めておきたい問い
いま、あなたの中で燃え広がりそうになっているのに、消すべきか、燃やしておくべきか決めかねているものは何でしょうか。
火を福と見た『夢判斷實驗書』は、消し止める夢にだけ損を読みました。夢の中で自分は炎に近づいたのか、離れたのか。燃えていた建物と、手にしていたもの(バケツか、マッチか、何もなかったか)を書き留めておくと、読み返したときに気づくことがあります。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。
