町に響くサイレン、家の前の通りを進む軍用車の列、届いた召集の知らせ。戦争の夢は、いちばん大きな規模の争いを夢の舞台に借りてきます。しかもそれは、戦争とは無縁の暮らしの中で見ることが多い夢です。古い夢の書物はこの夢を真剣に扱い、ほかの多くの夢とは違って、読み方の要点でおおむね一致していました。肝心なのは、どちらが勝ったかです。

夢の場面 古い書物の読み 出典
戦争が始まる 異国の軍が国に入ってくる夢は、国が乱れ騒動が起こる 『夢判斷』
戦争から逃げる 斬り合いのあと双方が逃げ出す夢は、財産を失う 『夢判斷實驗書』、『夢判斷』
空襲 空襲の項目はなし。砲弾の夢は怒りと争い、訴訟 ミラーの夢事典
戦争に行く 軍人が戦場へ向かうのを見る夢は、福と利が至る 『夢判斷實驗書』
陣営の中にいる 総じてよい 『夢判斷實驗書』、『周公解夢』
勝つ・負ける 勝てばよく、負ければ不吉 『夢判斷』、ミラーの夢事典
戦争で死ぬ どの書物にも項目なし なし

夢占いの古典では、戦争の夢はどう読まれてきたのか

日本の夢占い(夢判断)の古典として、このサイトが引く明治の夢判断書、柄澤照覺の『夢判斷實驗書』(明治41年)には、「軍事」という短い項目のまとまりがあります。『夢判斷實驗書』のその項には「○軍人の戰塲に赴くをみれば福利至るの兆」、「○我身陣營に在りとみれば總べて吉兆」とあり、軍人が戦場へ向かうのを見る夢は福と利が至るしるし、自分が陣営の中にいる夢は総じてよいしるしとされています。さらに「○戰爭するとみれば勝てば吉敗れても助くるものあれば吉」、つまり戦争をする夢は、勝てばよく、負けても助けてくれる者があればよい、と続きます。敵を囲む夢はよく、敵に囲まれる夢は苦しみを受けるしるしでした。

中国の『夢林玄解』を和訳した『夢判斷』(明治39年)にも、ほとんど同じ読みが並んでいます。明治41年の本が、中国の夢判断の流れを汲んでいたことがよくわかります。中国の古典『周公解夢』も「在軍陣中主大吉」、軍の陣中にいる夢を大吉とし、軍が敗れるのを見る夢は凶としました。さらに古く、中国の医学書『黄帝内経』の「霊枢」は「陰陽俱盛,則夢相殺」、陰と陽の気がともに盛んになると殺し合う夢を見る、と書き、こうした夢を運命ではなく体の状態から説明しています。

西洋の本は、もう少し厳しく読みました。ミラーの夢事典(1901年、米国)は、戦争の夢を仕事の不運と家庭の混乱や争いのしるしとしています。ただし同じ項は、勝利の夢なら商売が活気づき家庭は和やかになる、と読みを反転させています。つまり古い書物はどれも、戦争の夢をただ悪い夢とは読んでいません。将軍のように、陣地、囲む側か囲まれる側か、そして勝敗を見ていたのです。

戦争がやってくる

ここで紹介するのは古い夢の書物の読みで、歴史として伝えるものです。夢は未来を予言しません。

戦争が始まる夢の意味は?

ラジオの臨時ニュース、店に並ぶ長い列、始まった日の妙な静けさ。『夢判斷』(明治39年)は、異国の軍が国に入ってくる夢を、国が乱れ騒動が起こる前兆と読み、異国の者が自分の家に来る夢は泥棒が入るしるしとしました。ミラーの夢事典も「大砲」の項で、砲声の夢を、家と国が外からの侵入の危険にさらされるしるしと読んでいます。

心理学では、戦争が始まる場面は、くすぶっていた緊張が表沙汰になる瞬間と読まれます。職場や家庭の中で、意見の違いが内輪のものでなくなり、周りが味方を選び始めた日に見やすい夢です。

空襲の夢の意味は?

頭上の機影、防空壕、カーテン越しの閃光。空襲は古い夢の書物より新しい出来事で、このページで引くどの書物にも空襲の項目はありません。いちばん近いのはミラーの夢事典(1901年)の「砲弾」の項で、ミラーは砲弾の夢を、怒りと争いが訴訟に終わるしるしと読みました。

心理学の見方では、空襲の夢の中心は無力感です。多くの戦争の夢では夢見る人は動けますが、空襲では脅威が頭上から来て、できるのは身を隠して待つことだけです。組織の決定や遠くのニュースのように、自分の手が届かないところから圧力がかかっている時期に見やすい夢です。

戦争から逃げる夢の意味は?

暗いうちに荷物をまとめる、町を出る人でふさがった道、夜の国境。避難の場面の項目は、どの書物にもありません。いちばん近いのは、二冊の明治の本に共通する一行です。『夢判斷實驗書』は「○人と斬合して各逃げ走れば財産を失ふの兆」、斬り合いのあとで双方が逃げ出す夢を、財産を失うしるしとしました。同じ本は戦いに勝つ夢をよく、負ける夢を悪く読んでいますから、逃げることは、その間にある高くつく道だったわけです。

心理学では、自分が選んだわけではない争いから抜け出したい気持ちと読まれます。同僚どうし、親どうし、友人どうしの間に挟まれ、どちらかを選ぶくらいなら離れたいと感じているときに見やすい夢です。逃げる場面そのものについては逃げる夢にも詳しく書きました。

戦争の中にいる

戦争に行く夢の意味は?

軍服、列車、玄関先での別れ。『夢判斷實驗書』は、軍人が戦場へ向かうのを見る夢を福と利が至るしるしと読み、『夢判斷』も、軍人や馬が勢いよくそろって行く夢を、利と福がともに至るしるしとしました。ミラーの夢事典は、自分が立派な兵士になる夢を、理想がそのまま実現するしるしと読んでいます。

心理学では、戦争に行く夢は、争いを引き受ける決心と読まれます。避けてきた対決や、しばらくすべてを注ぐことになる大きな仕事に、腹をくくった時期に見やすい夢です。列車の中で、覚悟を決めていたのか、引きずられていたのか、その感覚が手がかりになります。

戦争に勝つ夢・負ける夢の意味は?

丘の上にひるがえる旗、あるいは敗れて帰る長い道。ここでは東西の書物がそろいます。『夢判斷』は「與夷狄交戰」の項で、「戰に勝つ夢を見れば萬事吉なれど之に打負けたる夢は凡て不吉なり」、異国の軍と戦って勝つ夢は万事よく、負ける夢はすべて不吉と書きました。ミラーの夢事典も、勝利を商売の活気と家庭の和合、敗北を混乱と読んでいます。『夢判斷實驗書』だけが、負けても助ける者があればよい、というやさしい例外を添えました。

心理学では、勝ち負けは、現実の争いについての報告として読まれます。いま自分が勝っていると感じているのか、そして味方はいるのか、ということです。

戦争で死ぬ夢の意味は?

避けきれなかった砲弾、夢が急に静まりかえる瞬間。戦場で死ぬ夢の項目は、このページで引くどの書物にもありません。心理学では、夢の中の死は予告ではなく終わりの象徴と読まれ、戦争の夢での死は、もう続けられなくなった役割や立場、消耗しすぎた戦い方の終わりを映すと考えられます。怖い夢ですが、ありふれた夢でもあり、体のことを告げているわけではありません。

心理学では、戦争の夢をどう読むのか

心理学では、戦争の夢は、ひとつの口論を超えた規模の対立として読まれます。忠誠が割れ、気力や時間が配給制のように切り詰められ、どこにも和平の見通しが立たない。暮らしがいくつもの前線に分かれたような時期に、戦争の夢は現れやすいとされます。夢見る人は特定の誰かと戦っているわけではなく、風景全体が前線になっているのです。

実際の戦争や紛争の近くで暮らした人にとって、戦争の夢はつらい体験の名残を運ぶことがあり、それはごくありふれたことです。そうでない人の夢では、ニュースや映画の映像が、昼間の緊張の大きさに見合う舞台として借りられます。どちらの場合も、役に立つ問いは「敵は誰か」ではなく、「何が暮らしを陣営に分けてしまったのか」です。相手がひとりに絞られた夢は喧嘩の夢に、一発の弾が自分に当たる夢は撃たれる夢に近く、悪夢全体については悪夢のガイドにまとめました。

心に留めておきたい問い

いまの暮らしの中で、誰もがどちらかの側を選ばなければならなくなっている場所はどこでしょうか。


ミラーは勝利を家庭の和合と読み、明治の夢判断書は陣営の中を縁起のよい場所と考えました。けれど、なぜあなたの夢の戦争はいつも育った町の通りにやってくるのか、なぜ言い争いのあとの週にだけ始まるのかは、あなたの夢そのものにしか書かれていません。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。