暗い森の奥から、大きな黒い影がこちらを見ている。熊の夢には、ほかの動物の夢とは違う、体の芯がこわばるような緊張感があります。ところが明治の日本の夢判断書と西洋の古い夢の本とでは、同じ熊がまるで違う顔を見せます。

夢の場面 古い書物の読み 出典
熊に襲われる 敵に打ち勝つ 『黄金の輪』
熊に追いかけられる 古い書物に項目なし —
熊と戦う 古い書物に項目なし —
熊を倒す 以前のしがらみから抜け出す ミラーの夢事典
白熊 よい顔をして近づく不運、友を装う敵 ミラーの夢事典
子熊 古い書物に項目なし —

夢占いの古典では、熊の夢はどう読まれてきたのか

このページで中心に引くのは、日本の夢占い(夢判断)の古典、柄澤照覺の『夢判斷實驗書』(明治41年)です。この本は「○」で始まる短い一行を並べた本で、熊は動物を扱う「動物類」に入っています。この本は「熊をみれば家道繁榮の兆又善き子を得べし」と書き、熊を見る夢を、家が栄えるしるし、またよい子を授かるしるしと読みました。恐ろしい獣に家の繁栄を読む、明るい一行です。ただ、熊に襲われる、追われるといった場面ごとの行はなく、熊の項はこの一行で終わっています。

西洋の本の読みは、ほぼ正反対です。米国の夢占い本『黄金の輪』(1862年)は、熊を見る夢を、一人あるいは何人かの敵がいるしるしと読みました。ミラーの夢事典(1901年、米国)も熊を、あらゆる場面での手ごわい競争相手と読み、若い女性にとっては恋敵や不運のしるしとしています。明治の本が熊に家の豊かさを見たのに対し、西洋の本は熊に「立ちはだかる相手」を見ていたのです。

熊に襲われる・追われる夢

ここで紹介するのは、古い夢の書物に残る読みを、歴史の記録として伝えるものです。夢が未来を予言することはありません。

熊に襲われる夢の意味は?

大きな熊が突然こちらに向かってくる、熊の夢の中でもよく語られる場面です。明治の二冊には熊に襲われる場面の項目がなく、手がかりは西洋の本です。米国の夢占い本『黄金の輪』(1862年)は、熊に襲われる夢を、夢を見た人が敵に打ち勝つしるしと読みました。熊を見るだけなら敵がいるしるしですが、襲われると、その敵に勝つという読みに変わるのです。心理学では、襲いかかる熊は、圧倒されるような問題や、力の差を感じる相手と重ねて読まれます。

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熊に追いかけられる夢の意味は?

熊に追いかけられる夢:月明かりの森の小道を遠くのランタンに向かって駆けていく熊の絵
熊に追いかけられる

逃げても逃げても、重い足音が背後に迫ってくる夢です。明治の二冊にも、ここで引く西洋の本にも、熊に追われる場面の項目はありません。心理学では、追いかけられる夢は、向き合うのを先延ばしにしている問題がとる典型的な形とされます。追ってくるのが熊なら、その問題は大きく、簡単には振り切れないと感じているのかもしれません。逃げ切れたのか、途中で振り返ったのかも、大切な手がかりです。振り返って熊と目を合わせる夢は、問題に向き合う準備ができつつあることを示すとも読まれます。

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熊と戦う夢の意味は?

素手や棒きれで、自分よりずっと大きな熊と組み合う夢です。明治の二冊にも、ここで引く西洋の本にも、熊と戦う場面の項目はありません。現代の読み方では、熊と戦う夢は、手ごわい相手や大きな課題に、逃げずに立ち向かおうとしている気持ちの表れと読まれます。勝ち負けより、戦っているときに自分が怖かったのか、力がわいてきたのかが手がかりです。力がわいてきたのなら、思っている以上に対処する力が自分にある、と心が感じているのかもしれません。

熊を倒す夢の意味は?

戦いの末に、熊が倒れて動かなくなる夢です。明治の二冊にはこの場面の項目がありませんが、ミラーの夢事典(1901年、米国)は、熊を殺す夢を、以前からのしがらみから抜け出すしるしと読みました。熊を競争相手と読んだミラーの熊の項で、明るく読まれているのはこの一行だけです。心理学でも、熊を倒す夢は、長く手こずってきた問題に決着をつけた感覚や、自分を縛っていた関係から自由になりたい気持ちとして読まれます。

どんな熊だったか

白熊の夢の意味は?

白熊の夢:暗い海のそば、月明かりの氷の上にじっと立つ白熊の絵
白熊

雪や氷の中に、白い熊が静かに立っている夢です。ミラーの夢事典(1901年、米国)は、北極熊の夢を欺きのしるしと読み、不運がよい顔をして近づいてくること、敵が友を装っていることを表すとしました。ただし、北極熊の毛皮を見る夢は、反対を乗り越えるしるしと読んでいます。明治の二冊には、白熊の項目はありません。心理学では、白熊は、穏やかに見えて実は近寄りがたい人や、冷たく感じる関係と重ねて読まれることがあります。

子熊の夢の意味は?

子熊の夢:月明かりの草むらに座る子熊と、後ろの木立で休む母熊の絵
子熊

ぬいぐるみのような子熊が、よちよちと近づいてくる夢です。明治の二冊にも、ここで引く西洋の本にも、子熊の項目はありません。現代の読み方では、子熊は、かわいらしさと危うさが同居する存在です。そばに母熊がいるかもしれないという緊張も含めて、守りたいものと、それに伴う責任への気持ちを映すと考えられます。『夢判斷實驗書』が熊によい子を授かることを読んだのとは別に、心理学では、子熊は自分の中の無邪気な部分として読まれることもあります。

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心理学では、熊の夢をどう読むのか

ユングは、夢に出てくる動物を、自分の中の本能的な力の表れと考えました。熊は、その中でもとりわけ大きく、力強い動物です。現代の読み方では、熊の夢は、自分より大きな力、たとえば職場の上の立場の人や、避けて通れない課題を前にしたときの気持ちを映すと考えられます。同時に、熊は冬を越すために眠り、春に目覚める動物でもあり、休息や回復の象徴として読まれることもあります。

だから、熊が何をしていたかが大切です。襲ってきたのか、ただそこにいたのか、自分が近づいたのか。『夢判斷實驗書』が熊を見るだけの夢に家の繁栄を読み、『黄金の輪』が襲われる夢に勝利を読んだように、同じ熊でも場面で意味が変わると考える点で、古い書物と心理学は通じ合っています。

心に留めておきたい問い

いま、自分よりずっと大きく見えて、つい避けてしまっている相手や課題は何でしょうか。


熊を家の繁栄と読んだ明治の本と、敵と読んだ西洋の本。どちらに近いかは、夢の熊との距離がよく教えてくれます。遠くの森にいたのか、手の届くところまで来ていたのか、背を向けて去っていったのか。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。