家の中は静まり返っているのに、廊下の突き当たりに、いるはずのない誰かが立っている。幽霊の夢は、人が覚えている夢のなかでもとくに鮮やかで、朝になってもなかなか振り払えない夢です。古い夢の書物は霊について意外なほど多くを語っていますが、その読みは一様ではありません。幽霊を災いと読む本もあれば、幸運と読む本もあるのです。

夢の場面 古い書物の読み 出典
怪しい霊を見る 名を挙げるしるし 『夢判斷實驗書』
幽霊に追いかけられる 鬼神に追われ罪を問われるのは凶 『夢判斷實驗書』
家に幽霊がいる 鬼が来るのは凶、去るのは吉 『夢判斷實驗書』
知っている人の幽霊 親の幽霊は危険、見知らぬ人との組み事に注意 ミラーの夢事典
幽霊と話す 鬼神に呼ばれるのは身を慎めという知らせ 『夢判斷實驗書』
幽霊が怖くない 鬼と戦って勝つのは吉 『夢判斷實驗書』

夢占いの古典では、幽霊の夢はどう読まれてきたのか

明治の夢判断書、柄澤照覺の『夢判斷實驗書』(明治41年)には、「幽霊」という見出しはありません。代わりにあるのが「鬼」と「鬼神」の項目です。中国の夢書の流れをくむこの本の「鬼」は、角のある鬼だけでなく、死者の霊や得体の知れない霊的な存在まで含む言葉で、幽霊の夢にいちばん近い項目です。神仏類の章(第54コマ、80〜81頁)に、まとまって並んでいます。

その最初の一行が「○怪しき鬼をみれば名を擧ぐるの兆」です。不気味な霊を見る夢を、この本は名を挙げるしるしと読みました。続いて「○鬼の來るとみれば凶」「○鬼の去るとみれば吉」とあり、霊がこちらへ来るか、去っていくかで読みが逆になります。化け物についても『夢判斷實驗書』は「○怪物をみれば都て吉但し驚くことあるべし」と書いていて、驚かされはしても、すべてよいとしました。

中国の古典『周公解夢』にも、仏・僧・鬼神の章に霊の夢が二行あります。『周公解夢』では、鬼神に打たれる夢は「被鬼神打大不祥」、ひどく不吉とされ、鬼と戦う夢は「與鬼鬥者主延壽」、長寿のしるしとされました。

西洋の本はもっと暗く読みます。ミラーの夢事典(1901年、米国)は「幽霊(Ghost)」「幻影(Phantom)」「霊(Spirit or Specter)」「亡霊(Apparition)」と四つの項目を立て、そのほとんどを警告として読みました。西洋の本は幽霊そのものを恐れ、東洋の本は、霊とのやりとりでどちらが優位に立つかに目を向けていたのです。

幽霊はどこにいて、何をしたか

ここで紹介するのは古い夢の書物の読みで、歴史として伝えるものです。夢は未来を予言しません。

幽霊に追いかけられる夢の意味は?

すぐ後ろについてくる足音、階段に感じる冷たい気配。『夢判斷實驗書』は、鬼神に追われて罪を問いただされる夢を凶とし、家の中に死者が出ることもあると書きました。これは悪い知らせを表すこの本の決まった言い回しで、歴史として紹介するものです。ミラーの夢事典は、幻影に追われる夢を奇妙で落ち着かない出来事と読み、幻影が逃げていく夢を、悩みが小さくなっていくことと読んでいます。心理学では、追いかけられる夢は「回避」の夢の典型で、片づいていない何かが近づいてくる感覚を映すと考えます。

家に幽霊がいる夢の意味は?

壁を叩く音、ひとりでに開く戸、夜の台所に立つ人影。『夢判斷實驗書』は、鬼が来る夢を凶、去っていく夢を吉と読みました。ミラーの夢事典は、霊が戸や壁を叩く音を聞く夢を、思いがけない面倒が起こることと読んでいます。心理学では、家は自分自身を表すとよく言われます。家にいる幽霊は、毎日使っている部屋にまだ住みついている過去の何かです。古い家の夢もあわせてどうぞ。

幽霊と話す夢の意味は?

幽霊が何か言う、あるいは自分から話しかける。その言葉がやけに大事に感じられる夢です。『夢判斷實驗書』は「○鬼神に召ばるゝとみれば我が身に注意する兆なれば其言ふ處に從ふて吉」と書き、霊に呼ばれる夢を、身を慎めという知らせ、その言うことに従えばよいと読みました。ミラーの夢事典は反対に、話しかけてくる幽霊を、敵の手におびき寄せられることと読んでいます。心理学では、幽霊の言葉を見た人自身の声として聞きます。起きているときには言いにくいことを、夢が代わりに言わせていることが多いのです。

誰の幽霊だったか、どう感じたか

知っている人の幽霊の夢の意味は?

親、祖父母、友人。ときにはまだ生きている人の幽霊が出てくることもあります。ミラーの夢事典は、親の幽霊の夢を危険と読み、見知らぬ人と手を組むことに注意せよとしました。生きている親類や友人の幽霊は、その友人の悪意への警告とされています。亡くなった人の幽霊について、心理学では悲しみの働きとして読みます。くわしくは亡くなった人の夢のページをどうぞ。こうした夢がつらい朝を何度も連れてくるようなら、信頼できる人に話してみるのもひとつの方法です。

幽霊が怖くない夢の意味は?

人影はそこにいるのに、自分は落ち着いている。好奇心さえ感じる。『夢判斷實驗書』は「○鬼と鬪ひて勝つとみれば吉」と書き、『周公解夢』も鬼と戦う夢を長寿と読みました。心理学では、恐怖のない幽霊の夢を、過去の出来事が力を失ったしるし、あるいは向き合う準備ができてきたしるしと考えます。

心理学では、幽霊の夢をどう読むのか

心理学では、幽霊を「終わっていないもの」の姿として読みます。まだ手放しきれていない過去、ある人、ある後ろめたさ、もう卒業したはずの昔の自分が、今の暮らしの廊下を歩いているのです。幽霊の夢が子どものころの家や昔の学校、以前住んでいた部屋で起こりやすいのは、その過去が暮らしていた場所だからでしょう。

心理学が注目する、もうひとつの静かな夢もあります。自分が幽霊になって、誰にも見えず、声も届かない部屋を歩く夢です。家や職場で自分が透明になったように感じる時期に見やすいとされます。どちらの夢でも、問いは同じです。まだ弔われていないものは何か。その何かに名前がつき、話し合いがもたれ、喪失が悼まれると、幽霊の夢は静まっていくことが多いのです。

心に留めておきたい問い

あなたの過去のなかで、いまも暮らしの部屋を歩きまわっているものは何でしょうか。それを休ませるには、何が必要でしょうか。


ミラーは幽霊を恐れ、明治の夢判断書は怪しい霊を名を挙げるしるしと読みました。けれど、なぜあなたの幽霊がいつも祖母の家に出るのか、口げんかのあとの週にだけ現れるのかは、古い書物には書いてありません。夢の意味を読むこと自体に迷いがあるなら、夢占いはやめたほうがいい?にも正直な答えを書きました。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。