廊下が狭くなり、背後の声が大きくなり、気づけばまた十四歳に戻っている。いじめられる夢は、大人がよく見る嫌な夢のひとつで、しかもしつこく戻ってきます。卒業して何十年たっても、下駄箱の前で、小さく、ひとりきりで立っている自分を見る人は少なくありません。古い夢の書物は「いじめ」という言葉を知りませんでしたが、人に打たれること、侮られること、辱められることについては、多くを書き残しています。
| 夢の場面 | 古い書物の読み | 出典 |
|---|---|---|
| 学校でいじめられる | いじめの項目はなし。学校にいる若い自分に戻る夢は、昔の素朴な日々を懐かしむ | ミラーの夢事典(1901年) |
| 知らない人にいじめられる | いじめの項目はなし。知らない人を罵る夢は、他人に欺かれ侮られる | 『夢判斷實驗書』 |
| 昔いじめられた人が出てくる | いじめの項目はなし。子どものころの校舎を訪ねる夢は、いまの不満 | ミラーの夢事典(1901年) |
| 子どもがいじめられる | どの書物にも項目なし | なし |
| 叩かれる・殴られる | 己の力を失う | 『夢判斷實驗書』、『夢判斷』 |
| 叩かれる・殴られる | 力を得る | 『周公解夢』 |
| 笑われる・馬鹿にされる | 財を得る | 『周公解夢』 |
| やり返す | 相手の力を得る | 『夢判斷實驗書』 |
夢占いの古典では、いじめられる夢はどう読まれてきたのか
まず、このサイトが日本の夢占い(夢判断)の古典として引く明治の二冊、柄澤照覺の『夢判斷實驗書』(明治41年)と、中国の『夢林玄解』を和訳した『夢判斷』(明治39年)には、「いじめ」という項目はありません。一対一の喧嘩ではなく、くり返される集団の仕打ちとしての「いじめ」は、新しい言葉であり、新しい見方だからです。そのかわり、どちらの本にも「打たれる」「罵られる」「侮られる」夢の項目がそろっています。
『夢判斷實驗書』は、打つ・打たれる・罵るの項目をひとところにまとめ、「○人に打たるゝとみれば己の力を失ふの兆」と書きました。すぐ隣には「○人を打つとみれば人の力を得るの兆」とあります。打たれれば自分の力が減り、打てば相手の力が自分に移る、という読みです。『夢判斷』もほぼ同じ文で「人に打たれる夢は己の力を失ふ兆なり」と書き、さらに人に殴られる夢については「此夢は凡て失物の再び現はれる前兆なり」と、なくした物が出てくるしるしとする、少し意外な一行を添えています。
中国の古典『周公解夢』(1880年刊本)は、ここで読みをひっくり返します。傷や争いを集めた章に「被人打者主得力」、人に打たれる夢は力を得るしるしとあり、続けて「被人凌辱主得財」、人に辱められる夢は財を得るしるしと書かれています。次の章には「被人作賤者大吉」、人に卑しく扱われる夢は「大吉」とする一行まであります。「夢は逆夢」ということわざのとおり、つらい場面ほど良く読むという、古い夢解きの癖がよく表れた箇所です。
西洋の本はその中間です。ミラーの夢事典(1901年、米国)は、人からひどい扱いを受ける夢を、日々の営みが他人の敵意に邪魔されるしるしと読みました。幸運でも力の喪失でもなく、悪意による妨げという読みです。
つまり古い書物の読みは、力を失う、力を得る、悪意に邪魔される、の三つに分かれます。そしてどの本も、いじめの夢をいじめの夢らしくしているもの、つまり取り囲む顔、笑い声、逃げ場のなさについては何も書いていません。そこは、後半の心理学の見方が引き受けます。
誰にいじめられたか
ここで紹介するのは古い夢の書物の読みで、歴史として伝えるものです。夢は未来を予言しません。
学校でいじめられる夢の意味は?
昔の教室、昔の制服、いつもの数人。いじめの夢の多くは学校を舞台に選びます。実際には学校でいじめられた経験のない人でも、です。学校でのいじめを読んだ古い書物はありませんが、ミラーの夢事典は、若返って学校にいる夢について、悲しみや挫折のなかで「昔の素朴な信頼と楽しみ」を懐かしむときに見る夢、と書いています。心理学では、学校の夢は、能力や居場所が評価にさらされている感覚の夢と読まれます。いじめの形をとるのは、新しい職場、親戚の集まり、自分以外の全員がルールを知っているような場など、大人になってから集団に値踏みされていると感じるときです。
知らない人にいじめられる夢の意味は?
見覚えのない顔なのに、どこを突けば痛いかを知り尽くしている。知らない人にいじめられる夢を読んだ書物はありません。いちばん近い一行は向きが逆で、『夢判斷實驗書』は「○知らざる人を罵るとみれば他人に欺かれ又侮らるゝの兆」と書きました。知らない人を罵る夢を、自分が欺かれ侮られるしるしとしたのです。ユングの読みでは、夢の中の見知らぬ人は、まだ自分のものと認めていない自分の一部であることが多いとされます。からかってくる知らない人は、昔のいじめっ子が去ったあとも同じ言葉をくり返している、内側の厳しい声なのかもしれません。
昔いじめられた人が出てくる夢の意味は?
忘れかけていた名前、当時のままの顔。昔の相手が夢に戻ってくる場面を読んだ書物はありません。近いのはミラーの夢事典の「学校」の項で、子どものころの校舎を訪ねる夢は、不満や気落ちする出来事がいまを覆っているしるし、と読まれています。心理学では、昔のいじめっ子の夢は、その人自身についての夢ではないことがほとんどです。いまの誰かが当時と同じ気持ちを呼び起こしたとき、心はいちばん古い記憶を引き出してきます。問うべきは「なぜあの人が」ではなく、「今週、誰にあの気持ちにさせられたか」です。
子どもがいじめられる夢の意味は?
見ているのに、駆け寄れない。親がいちばんよく覚えているのはその場面です。子どもがいじめられる夢を読んだ書物はありません。ユングの読みでは、夢の中で危険にさらされる子どもは、自分の中の若いもの、新しく始まったもの、傷つきやすいものであることが多いとされます。もちろん、進学やクラス替えの時期、子どもが急に口数を減らしたときなど、現実の心配がそのまま夢になることもあります。どちらの読みも同時に当てはまることがあり、夢はどちらかを選べとは言いません。
夢の中で何をされたか
叩かれる・殴られる夢の意味は?
廊下での一押し、よけられないと分かっている一撃。古い書物がいちばん多くを語り、いちばん食い違うのがこの場面です。『夢判斷實驗書』と『夢判斷』は、打たれる夢を自分の力を失うしるしと読み、『周公解夢』は力を得るしるしと読みました。心理学では、無力感が体の形をとった夢と考えられます。押し切られた、多数決で負けた、見過ごされたという感覚を、押されても押し返せない体として見せているのです。
笑われる・馬鹿にされる夢の意味は?
教室じゅうが振り向いて笑う。いちばんこたえるのは、たいていこの笑い声です。『周公解夢』は辱められる夢を財を得るしるしとしましたが、『夢判斷』の読みはずっと厳しく、「奴僕に侮られ欺かるゝ夢」を「上に居るもの下の者に侮られ欺かるゝ前兆なり」と書き、家の中の和が乱れるしるしともしています。心理学では、嘲笑の夢は、行き場を探している恥ずかしさの夢と読まれます。昼間の小さな失敗を、周りはとうに忘れているのに、心だけがまだ抱えているときに見やすい夢です。
いじめっ子にやり返す夢の意味は?
ついに振り向いて、言い返す、叩き返す。『夢判斷實驗書』は人を打つ夢を「人の力を得る」しるしとし、同じ本は「○我身人と罵り合ふとみれば吉」とも書いています。この夢から覚めた人の多くはほっとし、ときには自分の勢いに驚きます。心理学では、境界線を引き直す夢と読まれます。昼間は穏やかに抑えてきた怒りに、夢がようやく声を与えたのです。争いの夢全体については喧嘩の夢もどうぞ。
心理学では、いじめられる夢をどう読むのか
心理学では、いじめの夢はよく「立ち位置」の夢として読まれます。集団の中で自分がどこに立っているのか、そもそもそこに立っていてよいのか。いじめっ子そのものは、あまり重要ではありません。大事なのは、その人が呼び起こす気持ち、つまり小さくなる、見られている、逃げられない、という感覚です。この感覚は記憶が長く、居場所がいちばん揺らぎやすかった思春期の舞台を、夢はくり返し借りてきます。
いじめの夢の多くは、狙い撃ちにされたと感じた日のあとにやってきます。人前での批判、自分抜きで決まったこと、突き飛ばされたように届いた一通のメッセージ。はっきりしたきっかけのないまま、昔の記憶を再生するだけの夢もあります。一度危険だと感じた経験を、心はくり返したどるものです。どちらもごく普通のことで、いまの状況に名前をつけたり、昔の記憶を誰かに話したりすると、落ち着いていくことが多い夢です。いじめの夢がつらい朝を何度も連れてくるようなら、信頼できる人に話してみるのもひとつの方法です。
夢の終わり方にも意味があります。逃げる夢は、昼間もまだ何かを避けているときに見やすく、その形については追いかけられる夢で詳しく書きました。立ち止まって言い返す夢は、本人が思うより、決断に近づいていることが多いのです。
心に留めておきたい問い
いまの暮らしの中で、本当の自分より小さく感じてしまう場所はどこでしょうか。そして、最初にそう感じさせたのは誰だったでしょうか。
明治の夢判断書は打たれる夢を力を失うしるしと読み、『周公解夢』は力を得るしるしと読みました。けれど、いじめっ子がいつも同じ階段に現れる理由や、評価面談の前の週にだけ夢に出てくる理由は、古い書物には書かれていません。手がかりは、あなたの夢そのものにあります。夢の意味を読むこと自体に迷いがあるなら、夢占いはやめたほうがいい?にも正直な答えを書きました。Dreamlockは、iPhone向けのプライベートな夢日記アプリで、App Storeで配信中です。吹き込んだ夢を、古い書物の読み、心理学の見方、ひとつの問いから読み解きます。未来を占うことはしません。