不思議な夢を見た朝、「夢占い」や「夢判断」で調べる人は少なくありません。けれども、ネットに並ぶ夢の意味の多くは出典が書かれておらず、どの本の、いつの読み方なのかがわかりません。このページでは、日本の「夢判断」の伝統を、実際に残っている本にもとづいて紹介します。誰が書き、いつ出版され、何が書かれているのか。そして、それをどう読めばよいのか。
夢判断という言葉
夢判断(ゆめはんだん)は、夢に見たものを取り上げて、その吉凶や意味を読み解くことです。似た言葉に「夢占い」や「夢合せ」があります。民俗学者の柳田國男は『昔話と文学』(1938年)の中で、夢についての習俗のうち「最も舊くからあつたのが夢合せ、つまり一種の解釋學です」と書きました。夢を見たら、その意味を合わせる。日本の夢判断は、この古い営みの延長にあります。
なお、フロイトの『夢の解釈』も日本語では『夢判断』と訳されてきましたが、こちらは夢を未来の兆しではなく、見た人自身の心の表れとして読む、まったく別の考え方です。このページで扱うのは、それより前からある夢占いの伝統のほうです。
このサイトが出典とする二冊の夢判断書
このサイトの日本語の夢の項目は、主に明治時代の二冊の本にもとづいています。どちらも国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。
| 書名 | 年 | 特徴 |
|---|---|---|
| 柄澤照覺『夢判斷實驗書』 | 明治41年(1908年)、東京・神誠館 | 天文・地理・人物・身體・服飾・宮室・器財・飲食・動物・植物の部に分け、「○…とみれば…の兆」の形で書く |
| 『夢判斷』 | 明治39年(1906年)、東京・北上屋書店 | 中国の夢書『夢林玄解』の日本語訳。項目ごとに〔吉〕〔凶〕〔大吉〕などの判定がつく |
『夢判斷實驗書』は、一つの項目が一行か二行の短い本です。たとえば蛇の部は「蛇をみれば」で始まり、男が蛇を見れば美しい妻を得、女が見ればよい夫を得る、と読みます。蛇を踏めば宝を得る、蛇に咬まれれば大きな利益を得る、とも書かれています。西洋の夢の本が蛇を敵として読むのとは、まるで違う読み方です。
『夢判斷』(1906年)は、中国明代の夢書『夢林玄解』を日本語に訳した本です。見出しは漢文のまま、そこに吉凶の判定と日本語の説明がつきます。見る人によって読み方が変わる項目も多く、たとえば金を得る夢は、それ自体は凶とされながら、行いの正しい人、親を大切にする人にとっては吉とされ、判定は「貞吉」と記されています。
中国から来た読み方
日本の夢判断書は、中国の夢書と深くつながっています。『夢判斷實驗書』の水の項目は、「水の上を行くとみれば吉」「水の上に立つと見れば便りとする人死すべし」という対で始まりますが、これは中国の『周公解夢』の「水上行者主大吉」「水上立者主凶事」とほぼ同じです。蛇に咬まれて大きな利益という読み方も、『周公解夢』の「蛇咬人主得大財」に重なります。1906年の『夢判斷』に至っては、中国の『夢林玄解』の翻訳そのものです。
つまり日本の夢判断は、中国の夢書を受け取り、日本語に置き換え、ときに書き足しながら育ってきた伝統だと言えます。
本の外にある夢の民俗
夢判断書のまわりには、本に書かれなかった、あるいは本より古い夢の習俗があります。
初夢と一富士二鷹三茄子。 新年最初に見る夢の縁起物として知られる「一富士二鷹三茄子」は、十返舎一九の『江之島土産』(1809年)に「一冨士二鷹三茄子だからナントめでたへじやァねへか」と出てきます。
逆夢と正夢。 柳田國男は「夢は逆夢」という諺を記録しています。見た夢と反対のことが起こるという考え方で、それに対して見た通りになる夢が正夢です。悪い夢を見ても逆夢だと言って安心する、という知恵でもあります。
夢違えと獏。 悪い夢をよい夢に変える、あるいは払うまじないを「夢違え」と言います。折口信夫は『古代研究』(1929年)で、獏は凶夢を食わせるためのもので、「夢違へ」や「夢拂へ」の符と考えられていたに違いない、と述べています。さらにさかのぼると、井原西鶴の『世間胸算用』(1692年)には、年の暮れに「夢違ひの御札」を買う様子が描かれています。
他の文化との違い
夢判断は、このサイトが比べている九つの伝統の一つです。同じ蛇の夢でも、ポーランドの夢の本では人の悪意、イスラームの夢解きでは色で格付けされる敵、ナポリのスモルフィアでは89という数字、中国の『詩経』では女の子が生まれる兆しです。その中で、明治の夢判断書は蛇を結婚と財運に結びつけました。こうした読み方の違いは、ツール夢占いの文化比較でカードを並べて見ることができ、どのカードにも本の名前と箇所が書いてあります。蛇の夢をさらに詳しく知りたい人は、蛇の夢の意味のページへ。古代エジプトからフロイトまでの大きな流れは夢占いの歴史で紹介しています。
夢判断を今どう読むか
夢判断書は、未来を言い当てる本ではありません。明治の人々が何を願い、何を恐れたかを伝える記録です。よい妻、よい夫、宝、家の繁栄、そして身近な人の無事。そこに並ぶ言葉を読むと、当時の暮らしの手触りが伝わってきます。
このサイトでは、夢判断書の読み方を必ず書名とともに紹介し、その隣に心理学から見た読み方を置いています。夢が未来を予言することはありません。けれども、「この夢を見たとき、自分は何を感じていたか」「それは起きているときの生活の何に似ているか」と考える手がかりとして、古い夢判断はいまも役に立ちます。